◇「海の道構想」に活路 担い手育て政策持続を
瀬戸内海の離島、大崎上島の玄関口・白水港。
今月21日までの毎週金、土、日曜の朝、フェリーの待合室横に小さなカフェと朝市が開かれている。
4メートル四方の仮設テントに、野菜や果物、花などの島の新鮮な農産物が並び、コーヒーは無料。島のあちこちから人が集まり、会話が弾む。湯崎英彦知事(45)が知事選のマニフェストで掲げた「瀬戸内 海の道構想」の実証事業の一つだ。
運営するのは、高齢者の認知症予防などに取り組むNPO法人「大崎上島ながいき委員会」。
理事長の高田艶子さん(80)は「瀬戸内海は、四季の移ろいや朝夕の美しさが感じられる世界に冠たる多島海。それを観光資源として生かそうという湯崎知事と志を共にしたい」と意気込む。
湯崎知事の目玉政策である同構想は、瀬戸内海に点在する地域資源を相互に連携させて魅力を高め、観光などの産業活性化につなげる。
県庁内にプロジェクトチームを発足させ、専門家による構想策定委員会も設立した。県は今年度5000万円を予算化し、1000万円は公募した12の実証事業に充てた。実証事業で出た課題などを構想に反映させる。
高田さんは12年前に京都から転居した。当時、約1万1000人だった島の人口は、現在約8600人。人口減少と高齢化が急速に進み、65歳以上の割合は43・5%で県内の市町で最高だ。
「このままでは島が沈んでしまう。住む人が人間らしく暮らせる島にしなければ」。高田さんは、▽認知症予防などのため一人暮らしの高齢者たちが集まる場▽島の農産物が手ごろな値段で買える朝市▽観光情報の発信--などの多機能を備えたカフェを作りたいと考えていた。今夏、実証事業の公募を知って申し込んだ。
カフェを開いているのは、桟橋の目の前という「島の一等地」だが、県からの委託料はわずか80万円で、開催は1カ月限定。
野菜を買いに来た山口豊子さん(78)は「見ていたらみんな欲しくなる。おしゃべりもできて楽しい。ずっと続けて」と期待するが、県は「限られた予算の中での事業。
にぎわいの創出や費用対効果を考えて今後の支援を決める」。
本格的なカフェの実現には施設建設などが必要。高田さんは祈るような気持ちで、カフェの設計図面を県に提出するつもりだ。
構想策定委員長の石森秀三・北海道大観光学高等研究センター長は「表層的な数値目標や観光の新しい動きに惑わされず、地域で地道に頑張っている個人やNPOなどを評価し、人をきちんと育てていくことが、10年、20年と、知事が代わっても続く政策展開につながる」と提言する。
多くの人が交流する「海の道」が開けるのか。打ち上げ花火で終わるのか。知事の手腕が問われる。
◇
毎日新聞 2010年11月20日 地方版
知恵を出し合いがんばってください。
PR