医師が不足し、診られる患者が減ったために収入が減る。採算のとりにくい医療や過疎地での医療を担う公立病院が、こんな悪循環で岐路に立っています。昨春、国の旗振りで、経営を黒字に換えようと各病院が「改革プラン」をつくりました。ベッドを減らしたり、備品代を節約したり。各地で試行錯誤が続いています。地域の「公立病院力」を2回にわけて見ていきます。(錦光山雅子)
■高齢者対応にシフト/東広島の安芸津病院
「我々の先輩の血のにじむ頑張りで生まれた病院。我々で何とか支えられないか」
3日、東広島市安芸津町地区の公民館。集まった約250人を前に、大木昇三さん(69)が訴えた。
「病院」とは、公民館の隣にある県立安芸津病院(1948年設立)。大木さんは住民がつくった「支援する会」の会長を務める。この日、病院が開いた公開講座に合わせて講演会を開き、参加者に病院の現状と協力を訴えた。
同病院は患者数の減少などから収益の減少が続く。2009年度で約3億円赤字となる見込みだ。収益の柱となる入院患者数(延べ)は08年度までの10年間で1万人近く減った。ベッドの利用率も01年度は9割を超えたが、08年度は7割を切った。
病院は昨春、全3病棟(150床)のうち1つ(50床)を閉鎖。大木さんたちは約3万3千人分の署名を集めて反対したが、変わらなかった。「このまま小さくなって、なくなってしまうんじゃないか」。大木さんは心配する。
患者が減る一因は、周辺の人口減と高齢化だ。安芸津町地区の人口は1万1444人(09年)。5年前から約800人減った。高齢者の比率は高まり、今は約3割。慢性疾患のお年寄りが増え、すぐ治療が必要な患者を想定した病院の機能とずれも出てきた。
加えて医師不足。週数回の外来をみる非常勤医師は確保できても、入院患者をみるのに必要な常勤医師が足りず、入院を制限せざるを得なかった。特に響いたのは01年秋の産科の休止。翌年度の入院患者数は、約5千人減った。
今年4月、病院は改善に乗り出した。100床のうち10床の用途を切り替え、手術や治療を終えた患者が自宅に戻れる程度に回復するまでの入院用にした。独り暮らしのお年寄りが、なかなか自宅に戻れないケースが目立つためだ。自宅で暮らす慢性疾患のお年寄りに対応するため、看護師による訪問看護も始めた。医師による公開講座の開催を周辺市町に提案し、利用増につなげようとしている。
ベッド利用率の目標は9割。4月中旬には87%まで回復した。「潜在的なニーズはある。待っているだけでなく、必要な見直しはしたい」と杉原正夫事務長は話す。
■節約・老健用ベッド・・・効果は
経営が苦しいのは、安芸津病院に限らない。総務省の「地方公営企業年鑑」によると、08年度決算では公立病院の約7割が赤字だった。
同省は07年末、公立病院の経営改革のための「ガイドライン」を策定。経営の効率化▽周辺病院との再編・ネットワーク化▽経営形態、の3点から実態を見直し、3年以内をめどに黒字化を目指すためのプランを08年度中に作って09年度から取り組むよう促した。
ガイドラインでは、07年度までの3年間のベッド利用率が70%に満たなかった場合は、ベッドの削減や、診療所(19床以下)への縮小が「適当」とした。ベッドを減らした病院の運営自治体には、今後5年間、削減前のベッド数に見合う額の地方交付税を配分するという「あめとムチ」策で誘導した。
こうした動きを受け、中国地方でも、ベッドの削減や新たな収入確保策などが進んでいる。
例えば、鳥取県智頭町の国保智頭病院は08年度末、約7億円の資金不足があった。プラン策定に合わせ、深刻な不良債務を抱える病院向けの「特例債」や銀行からの借り入れで不足を埋めて再出発。職員の給料を減らしたり、医薬品の購入先を1社に絞ったりして節約した。病院のベッドを減らした分を、介護が必要なお年寄りをみる「老人保健施設」のベッドに振り向けたり、健診センターを開いて受診者を増やしたりして収入増を図った。こうした取り組みで、当初の想定を上回る早さで業績が改善している。
ほかにも、ベッドを持たない地元の開業医に、空いている手術室やベッドを貸したり、通常よりも高額な個室ベッドを増やしたりして収入を増やそうとする病院もある。
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