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小野田 寛郎さんの話

大崎上島とはまったく関係のない話です。
個人の趣味の話です。
スルーしてください。


居場所がない日々



 羽田空港に帰還したとき、やはり祖国は安心できる場所であるという安堵感を覚えました。しかし、感じたことはそれだけではありませんでした。

 帰国直後に約二十日間の強制入院をさせられたのですが、その間に政府の建前と本音の落差に気がつきました。

 同時に、社会の反響をみていると、自分の持つ考えがすでに世の中に受け入れられてないこともわかりました。

大学生のアンケートで自衛隊を認める人が二十五パーセンくらいしかおらず、かっての聖戦と煽っていた新聞が、「侵略戦争だった」と書いていることを知り愕然としました。

 私はそういった世相の変化を「ハイ、そうですか」と受け入れることは、死んでもできませんでした。

それを認めることは、仲間を失いながら戦い続けた三十年の過去を恥じて改めろと強制されているに等しかったからです。同じ思いで戦って散った二人のためにも、譲ることはできませでした。

 だが一方で、誰かにあえて自分の考えに同調してほしくないとも思いました。
それによって私と同じ思想的異端者と見られて、迷惑をかけると思ったからです。
 私の感じた政府の方針との落差を具体的に述べます。

退院後の行動スケジュールには、空港でのインタビューで私が発表した「まず戦友の墓参りをする」という項目が健康を理由に外されて、その代わりに千鳥ヶ淵参りが加えられていました。

でも、もしそれに従ったら私の口約違反を世間は嘲笑うに違いありません。
私は靖国神社にお参りすれば、千鳥ヶ淵は必要ないと主張しました。

 そもそも、静養のための入院と発表されましたが、実は後日の発病に対して、「戦争後遺症」か否かを証明するための検査でした。私自身は入院の必要などまったく感じていなかったのです。

そして、その挙句に四時間の自動車旅行に耐えられないという理由で、墓参りがカットされていたのです。
 それから投降した兵士を連れてきて、「妻子もあり社会で働いている事を考慮して、『脱走兵』ときめつけず、彼のルバングでのことを追及しないでやってほしい」といわれました。

 さらに、私の兄を通して「三十年間の保障を国に請求しないように説得してほしい」と言われました。
おそるおそるそのことを告げる兄に向かって私は、
「みんなあの時は生きて帰れば有難いといって出かけました。

生きて帰れたのだから、何の不服もありません。請求したら戦死した仲間が化けて出られます。」
そう言って安心させましたが、兄は生涯このときのことを気にしていました。

入院中には、お見舞いのお金をさまざまな方から頂きました。政府の「静養」の発表によって、同情していただくことになったのでしょう。

入院してからは隔日に太い注射器で採血され、少しフラツキ始めているのに、大勢のマスコミを集めて閣僚からのお見舞金を授与されました。続いてマスコミの質問です。
「現在の金の価値がわかりますか」
までは良かったのですが、「何に使われますか」と聞かれて内心、不愉快を覚えながら、こう答えました。

「生きて帰ってきた私が頂くべき筋合いの金ではない。報道のお陰で方々から頂いているので全額、靖国神社に納めいたします。聞く所によると国がお守りしておらずご不自由のようですから」

 それが戦場で仲間を失った者の自然の心情だと思ったのですが、戦後の日本ではどうやら間違っていたらしいのです。「平和を守る活動へ拠出すべし」「軍国主義復活に加担するな」「贈ってくれた方の主旨に反する」と言われてしまいました。

 売ってもいないのに、買われた喧嘩。買ってもいないのに売られた喧嘩。---その頃の私は、日々そんな思いにとらわれながら生きていました。

喧嘩など戦場で三十年も命をかけてやってきても一銭の収入にもならないので、懲りているのです。

やっと平和な祖国に帰ったと思ったら、まだ喧嘩をしなくてはならないのか。そう思うと、暗澹≪あんたん≫たる思いでした。

 ここには、自分の居場所がないなと感じ、虚脱状態で日々を過ごしました。マスコミの取材攻勢にもさらされて、人間不信にも陥りそうでした。






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