大崎上島町の伝統行事「櫂(かい)伝馬船競漕(きょうそう)」は、杉の木でできた長さ11・1メートルの櫂伝馬船に片舷7人ずつ計14人の漕ぎ手が乗り込み、速さを競う。伝統が残る町内3地区の一つ、東野地区(旧東野町)で毎年8月13日にある競漕の歴史は古く、江戸時代までさかのぼる。往年の水軍をまざまざとさせる雄姿は観光客らの心を捉え、町を代表するイベントとなっている。
NPO法人「かみじまの風」は、この櫂伝馬船で町おこしに力を入れる。理事の榎本江司さん(69)は島で生まれ、63年に旧運輸省に入った。船舶測度官として全国各地の運輸局に勤務し、定年を機に03年、島に戻った。
08年8月、町から同法人に、町おこしを支援する農水省「農山漁村地域力発掘支援モデル事業」を紹介された。町や観光協会、広島商船高専などと「地域協議会」を設立し、事務局長に就任した。事業に応募するためイベントを企画する必要があり、町内唯一の中学校、大崎上島中の生徒を対象にした櫂伝馬船の体験乗船を企画した。現在、事務全般を取りまとめる。
昨年8月にあった第2回は、生徒約150人が参加した。4隻に分かれて沖浦港を発着し、約5分で回るコース。生徒から「体験ではなく競漕がしたい」と声が上がるほど盛り上がった。「島の若者に、櫂伝馬船を通じて島の歴史を知ってほしい。それが町の振興、過疎化の歯止めにつながるはず」と話す。
観光客や修学旅行生向けの体験乗船、櫂伝馬船の伝統が残る周辺の島との交流など、地域振興策に知恵をひねる。力を入れるのが、造船技術の若者への継承だ。町内にいる造船の「名人」「達人」を発掘する。「『大崎上島出身』と胸を張って言える若者が増えれば、『島に行きたい』という人も増える。事業を通じて、町の魅力を発信しなければ」
県が進める「瀬戸内 海の道構想」には「大崎上島には、瀬戸内海の中心であるという自負がある。真っ先に食いつきたい」と期待を込める。「大崎上島の良いところは人情と景観。過疎化は進むが、自分が75歳、80歳になったときに生活できるよう、若者にとって魅力ある町にしたい」【星大樹】
◇
広島の産業や交通などの発展と、豊かな生活文化は、瀬戸内海の恩恵と切っても切り離せない。伝統の継承に尽力する人たち、新しい時代を切り開こうと情熱を傾ける人たち--。21世紀の「海の道」を築く人々の姿を追った。
かみじまの風は、HP、ブログもあるが、更新はされていない。
メルマガも、休刊となり、残念なことが多い。
住民も設立当初は期待した人も多かった。
PR